隠岐のクラフトビール最前線!【① 隠岐の島Brewing飯美:小さな集落で進む醸造所建設】

まだブルワリーは無い(2025年5月現在)けれど、立ち上げの動きが複数あると噂の隠岐諸島。
離島ビール倶楽部として、調査せずにはいられません。

というわけで隠岐の島々を調査してきました!
第1話の今回は、島後の小さな集落で進む醸造所建設プロジェクトの現場をご紹介します。

隠岐諸島ってどんな場所?

隠岐諸島(島根県)には、4つの有人離島があります。

一番大きくて丸っこい島は島後」(隠岐の島町)で、他3島(西ノ島(西ノ島町)、中ノ島(海士町)、知夫里島(知夫村))は「島前と呼ばれています。

出典:隠岐汽船ウェブサイトより

本土側の七類港から「フェリーくにが」に乗って、いざ隠岐の島々へ!

厳しい日本海を行くフェリーですが、天気に恵まれたのでさほど揺れません。

この日は、島前の中ノ島(海士町)で途中下船して一泊。
海士町での取材内容は、その④でご紹介しますね。

さて、今回のお話はその翌朝からはじまります!

海士町の菱浦港から、高速ジェット船で島後(隠岐の島町・西郷港)へ移動します。

妻子を島前に残したまま、僕だけ島後へ半日トリップ。
そんなわがままな旅程も、ジェット船を駆使すれば実現するのです。

ジェット船で約30分。島後の西郷港に着きました。真新しくてきれいなターミナルです。

離島の中でも“秘境”に佇むブルワリー

今回の取材先は、島内でブルワリー開業準備中の「隠岐ビール工房(準備中)」さんです。(※開業時の屋号は「隠岐の島Brewing飯美」になる予定とのこと)
インスタグラムのDMから連絡したところ、建設中の現場を見学させていただけることになりました!

いま僕がいる西郷港は、地図上のA地点。
ブルワリー予定地の飯美(いいび)地区はB地点。島の反対側にあります。

港付近から海岸線沿いを走る路線バスで終点「飯美」まで行くこともできますが、今回は時間が限られているため、レンタカーで島の真ん中を縦断することに。

島後は広大で山深い島です。
先日訪れた壱岐(長崎県)も広かったけど、その1.8倍の面積。
いくつものトンネルを通り抜けて、島の反対側へと車を走らせます。

(画像:Googleストリートビューより)

港から車で30分。本線から分岐して飯美地区へつながる道へ。

島後の人口は約13,000人いますが、飯美地区は山と海に囲まれた本当に小さな集落。秘境といっても過言ではありません。

この先にどんな風景が待っているのか?ドキドキ!

到着したのは、川のせせらぎと小鳥のさえずりが心地よい、ひらけた場所。
ここが飯美地区の中心のようです。「飯美」のバス停もここにあります。

かつて生活必需品を取り扱う商店だったという建物。
何十年も前に廃業し、空き店舗になっていたこの場所が、「隠岐の島Brewing飯美」の開業予定地です。
ノスタルジックないい雰囲気が漂っています。

開業準備が進む工房内部に潜入!

建物の中は改装工事の真っ最中でした。(※取材日:2025年5月1日)
左の大きな白い設備は、ビールを保管するための冷蔵庫。
正面の扉の奥には工房スペースがあります。

こちらが代表の水間航多さん。
このカウンターの絵は、「友達にシルクスクリーンでプリントしてもらったんですよ。」と教えてくれました。

裏側を見ると、古い書類キャビネットを改造して作ったカウンターでした。水間さん自身がコツコツとDIYで醸造所を作っている様子が伺えます。

訪れた人がその場で飲めるように、簡易的なタップルームも作る予定だそうです。現地で飲めるのは嬉しいですね!

工房スペースも見学させていただきました。
ビール作りに必要な鍋や瓶詰機が着々と揃いつつありました!

醸造用の設備も搬入済み。早くビール作りたいですね!

「一昨年くらいから色々準備をしてたんですけど、なかなか思ったように進まなくて。これやろうと思ったら、その前にこの準備が必要だった、みたいなことが何度もあって…。準備の準備の準備みたいなことが色々続いて、予定より遅れてしまいました。」と、これまでの苦労を赤裸々に語る水間さん。

酒造免許取得に向け、現在は税務署との相談や手続きの真っ最中とのこと。

晴れて免許が下りたら、島内の酒蔵の酒粕を使用したヴァイツェンや、隠岐のハーブ「ふくぎ(クロモジ)」を使用したIPAなどを定番にする計画だそうです。どんな味に仕上がるのか、完成が待ち遠しいですね!

ホップの自家栽培も!水間さんの畑見学ツアー

醸造所予定地から徒歩1分の、水間さんの畑にもご案内いただきました。

畑の一区画では、さまざまな品種のホップが栽培されていました!

「2年前、ブルワリーの立ち上げ準備が思うように進まなかった時期に、『畑でもやるか』と思ってホップ栽培を始めたんです。」と水間さんは振り返ります。

開業後は、年に1回くらい、限定品として自家栽培ホップでビールを作ることも考えているそうです。

「こっちはミニトマトを植えたんですけど、寒さで枯れてしまったんです。」と訥々と語る水間さん。

飾り気がなく穏やかな“水間ワールド”に、気がつけばすっかり引き込まれていました。この水間さん、底が知れません。いったい何者なんでしょうか?

水間さんの想いと、地域からの期待

缶コーヒーを飲みながら、水間さんへのインタビューを続けます。

水間さんは東京都文京区の出身。学生時代は軽音楽部でギターを弾き、社会人になってからは自転車(マウンテンバイクやロードバイク)が趣味になりました。

最初、ビールは苦くて得意じゃなかったけれど、自転車仲間と長野県の安曇野へサイクリングしに行ったとき、現地でビールを飲んだのが楽しくて、それが原体験となりどんどんビールが好きになっていきました。

隠岐との出会いは、島根県の「しまコトアカデミー」を受講したことから。フィールドワークを通して、「隠岐がサイクリングで盛り上がる場所になったらいいな」と思ったそう。それが安曇野での原体験と結びつき、隠岐でビールを作りたいという想いに発展していったのでした。

とはいえ、知らない土地でいきなりビールを作るのは困難が伴います。そこでまずは地域おこし協力隊に応募し、2020年に隠岐へ移住。3年間の任期を勤め上げ、ついにブルワリー建設に着手したのです。

港の反対側に位置する飯美地区の物件に決めたのも、協力隊時代の担当エリアであり、地域との関係が深まっていたからだといいます。
打算や計算ではなく、人とのつながりやご縁によって自然な流れで決まったというのも、水間さんらしいなと思います。

インタビュー中、近所のおじいちゃんやおばあちゃんが次々と訪れ、工事の進み具合を見に来ていました。

写真のおじいちゃんが話してくれた言葉をご紹介します↓

「(地域からの期待について)期待も期待よ。だいぶなあ。」

「(水間さんの人柄は)協力隊でおったもんで、地域の中でやっとったもんで、みんな知っとるわね。慌ててやるような雰囲気の人でもないが。みんなが思うよりは彼の方が割とのんびりしとると思う。ゆったりと、ゆっくりと、楽しんどるとこだねこれは。それでもいいのかなと思ってる。」

「これで蔵を建てようかゆう気持ち(≒自分が儲けようという気持ち)はないと思う。最初のうちは何しとるかなと思っちょったけど、それがわかったもんで。こっちもゆとりができたというか、そんなに焦らんくなった。」

ガツガツせず、穏やかで実直な水間さんだからこそ、飯美地区の人々も安心でき、自然と応援したい気持ちになっているのでしょうね。

以下の記事によれば、飯美地区にはかつて50軒ほどあった家が、今ではその半数ほど。地区の維持すら不安な状況だといいます。ブルワリー開業をきっかけに、地域活性化の好循環が回り始めてほしいと願わずにはいられません。

地域に愛され、着実に歩みを進め続ける水間さんに、心から敬意を表して記念撮影!

開業したら絶対また飲みに来ますね!
その時はバスで訪れて、思う存分飲みたいです。楽しみにしてます!

島後は広くて奥が深い!!

帰り道。

行きと同じルートではつまらないので、海岸線沿いを走ることにしました。
道幅が狭く、うねうねした険しい道も多いですが…

こんな絶景に出会えたり…

(写真:浄土ヶ浦海岸

気持ちの良いスポットもたくさん!

(写真:春日神社のクロマツ群

自然も文化も見どころが満載の島なのです。

島後はやっぱり広くて奥が深い!
半日だけじゃもったいない!絶対また来るぞ~!

そんな思いを胸に、次なるビールスポットへと車を走らせるしま彦でした。
島後のビール旅、まだまだ続きます。次回もお楽しみに!

この記事を書いた人
しま彦

離島ビール倶楽部を運営する、東京在住の離島旅ファンです。島を訪れたら、その島ならではのビールで乾杯したいというごく個人的な欲望から、離島のビールづくりに興味を持つようになりました。本業は観光業で、持続可能な離島観光のあり方を模索中です。

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